こどもの病気(2009年〜2011年)



 マイコプラズマ(2)                 2011年12月

天皇陛下と愛子さまのご病気の原因が肺炎マイコプラズマであったことが報道され、この菌の名前はこれまで以上に有名になりました。100年以上前に発見された時、カビに似ていることからこの名前が付いたそうです。myco(マイコ)とはギリシャ語では「カビ」を意味します。
今年9月にこのページで病気の紹介をしましたが、年の瀬が迫ったこの時期になってもまだ流行は続いております。日々の外来診療で診る病気の頻度では、12月22日現在、当院ではインフルエンザや溶連菌感染症より多い数になっています。国立感染症研究所の感染症情報センターのデータでは、9歳以下が全報告数の約2/3を占め、14歳以下で実に80%を占めています。このことは、感染が起きている主たる場所が学校、幼稚園、保育施設であることを意味しています。この病気の感染には濃厚接触が必要とされていますが、咳が主要症状の病気ですので、狭い空間で集団が長時間一緒に過ごすそれらの場所では、感染がすぐに広がっていきます。

この病気の咳についてですが、初診時、「咳はひどくない」 「咳が出だしたのは昨日から」と話す保護者の方が意外に多くいます。マイコプラズマを疑って、こちらが少ししつこく聞いても、熱のことは強調しても、咳については軽めに答える方がわりといます。ところが、患者である子どもは診察中けっこう咳をしているし、小学生以上の子なら本人に問うてみると、「ずっと前から咳をしていた」 「いっぱい出る」と答えます。親が気づいていないだけなのか、咳に関しては熱ほどには気にならないのかもしれません。「咳がひどくない」という例でもレントゲンを撮ると、肺が真っ白に写る(広い範囲の肺炎)ことがよくあります。



 喘息(ぜんそく)                   2011年12月

日本の喘息患者は450万人〜500万人とされ、その約3分の1が16歳未満の子どもです。16歳未満の人口の7〜9%がこの病気を持っています。
喘息とは、ダニ、ほこり、たばこの煙、冷たい空気、ウイルス感染など様々な刺激で、空気の通り道(気道)である気管支が収縮し、激しいせき込みや呼吸困難が生じる病気です。かつては、気管支拡張薬を使って、発作で狭くなった気道を広げ、息苦しさを和らげることが治療の中心でした。

今日、気管支喘息は「気道に慢性的な炎症が続き、気道が過敏になる病気」と定義され、治療の基本は気道の炎症を抑える吸入ステロイドになってきました。この治療による効果は劇的で、昨年喘息で亡くなった方の数は10年前の約半分となっています。ちなみに、戦後間もない頃は、この病気で年間1万5千人もの人が亡くなっていたそうです。
喘息の治療を開始してしばらく経つと、症状は治まります。しかし、それで『治った』と思って早期に治療をやめてしまうと、気道の炎症が再発し、発作が再び起こってきます。気道の“傷”が完治しないうちに新たな“傷”ができるというようなことを繰り返すと、気道の壁が分厚く硬くなり、過敏性も増します。その結果、気管支の内腔はますます狭くなり、発作が起きやすくなります。症状が安定してきても、喘息の治療は粘り強く続けることが大切です。

一方、咳喘息(せきぜんそく)という疾患概念があります。ゼイゼイ、ヒューヒューといった喘鳴や呼吸困難がなく、咳だけが続くことが特徴です。一部の患者さんが真の喘息に移行します。この病気の治療でも、気道の炎症を抑えるステロイドの吸入薬を使います。



 インフルエンザワクチン                2011年11月

厚生労働省研究班の調査では、平成21年から22年に「新型」として流行したA/H1N1 2009型インフルエンザで死亡した子どものうち、約8割が発症当日から翌日にかけて症状が急変し、約7割が3日以内に亡くなっています。従来の季節性インフルエンザでも同様の傾向がみられています。同研究班は、「発症直後から手の施しようがない症例が多く、重症例にならないようにするためには予防接種で感染を防ぐことが大切」としています。
インフルエンザワクチンはインフルエンザの発症を100%予防することはできませんが、重症化を防ぐことができます。予防接種を受けていてもかかる人はいますが、集団で比較すると、ワクチン接種者の方が明らかにかかる率が低くなっています。私も約30年小児の診療に携わってきましたが、インフルエンザについては、ワクチンをしているのとしていないのとでは随分差があると実感しています。当院では、私を含めて職員全員が毎年予防接種をしております。昨シーズン、その前のシーズンもかなりの数のインフルエンザの患者さんが来院しましたが、当院の職員でインフルエンザにかかった者はいません。もちろん、小児科医院の職員は、職業柄感染症に強い(抗体を持っている)という可能性もあります。
保育所、幼稚園、学校で集団生活をする子どもさんには、早めにインフルエンザワクチンを受けることをお勧めします。




 熱性けいれん                      2011年9月

当院の待合室の掲示板に、『遠くから高熱で来られる患者さん(お子様)には、解熱剤を使ってから受診することをお勧めします。・・(途中 略)・・行き帰りの車の中で、ひきつけを起こすことがわりとあります。』と書いた紙を貼っています。実際そうなのです。とくに、診察が終わって薬を待っている間や自宅に帰る途中で起こることが多いです。
熱性けいれんは、多くの場合、小さい子どもさんで短時間のうちに熱が高く上がった時に起こります。子どもが発熱した時病院に連れていきますが、高熱の状態で連れていかれる子どもにとっては、かなりしんどい、負担になる行為でもあります。大人だったら、熱が上がってきて悪寒がしているような時に、病院にはまず行かないと思います。私も、自分の体温が39℃にもなっていたら、その時点では病院には行けないでしょう。子どもに座薬を使ってきたら、インフルエンザの検査が陰性になるわけではなく、真っ赤だったのどが診察時に赤くなくなっているわけでなく、聴診での肺の音が変わってしまうようなこともありません。すごくしんどそうで、つらそうなところを見ないと病気がわからないわけでもありません。熱を下げて少し楽にするのも治療として大事です。発熱していても元気そうにしていれば、あえて使う必要はありません。昨今、大人は、ちょっとしたかぜ、頭痛、肩こり、歯痛、生理痛などで解熱・鎮痛薬を使いまくっています。子どもには一切解熱剤を使ってはいけないという道理はありません。
病院から家に帰る途中、熱性けいれんを起こして、「○○ちゃん、○○ちゃん、しっかりして」と大声で叫びながらもどってきたお母さんに、「座薬か頓服を使ってきたらよかったのに」と話すと、「前の病院で座薬は使うなと言われた」 「熱を下げる薬は使いたくない」という言葉をときどき聞きます。2回目、3回目の熱性けいれんが起きた時にです。こういう方には、医療に対する考え方、思想が全く異なりますので、“前の病院”に行っていただくか、おうちで安静にして看ていただくしかないのかなと、思ってしまいます。



 マイコプラズマ肺炎                   2011年9月

耳慣れない言葉が多い医学用語のなかで、マイコプラズマ肺炎は比較的よく知られた病名かと思います。昨年の終わり頃からぽつりぽつり出ていたのですが、今年春以降、この南予地域で流行しています。
この病気は、マイコプラズマ・ニューモニエ(肺炎マイコプラズマ)という病原体の感染で起こります。この病原体は、ふつうの細菌よりずっと小さく、細菌にある細胞壁を欠いています。しかし、ウイルスと異なり、増殖に生きた細胞を必要とせず(自己増殖能)、一部の抗菌薬が有効なことから細菌の仲間に分類されています。

マイコプラズマ肺炎は、患者の飛沫を介して感染します。学校、幼稚園、保育所、家庭で感染が広がります。1990年頃まではほぼ4年ごとの周期で流行し、その流行年がオリンピックの開催される年と一致していたので“オリンピック肺炎”などと呼ばれていましたが、近年はこの周期性はくずれています。子どもや若者が多くかかるので、小児科ではよくみる病気ですが、0歳、1歳などの“小さい子ども”には少ない傾向があります。
潜伏期が2〜3週間とされていますが、たくさんの数の症例を診ていますと、1週間くらいで発病している症例もあります。いずれにしても、ふつうのかぜより潜伏期が長いので、家族内やクラス内感染が長期に持続します。今年の夏、夏休みに入ってからも、この病気の発症が続いたのもこのためです。

マイコプラズマ肺炎では咳は必ずみられる症状です。多くの場合、発熱を伴います。咳はしだいにひどくなり、頑固な咳が長く続きます。咳は夜間、早朝に増強する傾向があります。
マイコプラズマ肺炎の確定診断は抗体検査でなされますが、抗体価は病気の初期には有意な上昇がなく、少なくとも1〜2週間(3〜6週でピークになる)はかかります。また、発病早期に抗体を検出する迅速検査キットもありますが、特異度が低く、信頼性に乏しいとされています。つまり、抗体検査では実際の臨床の場においては診断ができないという欠点があり、その結果を待っていたのでは治療が間に合わないことになります。
日常の診療で、マイコプラズマ肺炎と診断もしくはそれを強く疑う所見としては、以下のようなものがあります。1)流行地域。流行している学校、幼稚園、保育園。毎日診療していれば、どこの学校、保育園で、何の病気がはやっているかは、だいたいわかっています。 2)咳の特徴。 3)聴診で肺の雑音が少ない。 4)白血球数が増えない。1万/μlまで上がらないことがほとんど。CRPもあまり高くならない。1 mg/dl台くらいが多い。 5)レントゲン写真の所見。これが最も参考になります。

治療には、マクロライド系抗菌薬(当院採用の薬で言えば、クラリス、ジスロマック、エリスロシン)やテトラサイクリン系抗菌薬(ミノマイシン。小児では投与は慎重にすることになっている。)、トスフロキサシン(オゼックス)が使われます。これらの抗菌薬をしっかり飲めば、経過は一般に良好で、入院治療は必要ありません。ただ、私個人的には、ここ4か月くらい流行しているマイコプラズマ肺炎では、第一選択薬のマクロライド系薬の効きが今一つ良くない印象を持っています。治療開始が遅れた症例、抗菌薬を飲まなかったり(親が飲ませなかった)して重症化した症例や合併症のある症例では、入院治療が必要になることがあります。

近年、細菌性肺炎は減少傾向にあり、またヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンの導入により今後ますます減っていくことが予想されるなかで、肺炎全体に占めるマイコプラズマ肺炎の比率は高まっていくと考えられます。



 はしか(麻疹)の流行                  2011年8月

今年、春から東京、神奈川など首都圏で麻疹が流行しています。少し遅れて、広島県や愛知県などでも患者が増加しました。
3年前(2008年春)にも、10代、20代の若者を中心に麻疹が流行しました。多くの大学が休校、閉鎖になり、大きなニュースになりました。経済大国といわれ、医療水準もトップレベルにある日本において、当時先進国ではほとんどみられなかった麻疹の流行は不名誉な事で、“はしか輸出国”などと海外から非難されていました。その後、国、地方自治体、医療機関等が、麻疹の免疫を高めるべく麻疹ワクチンの接種を推進し、ワクチンの2回接種が広く行われるようになりました。現在、10代の麻疹に対する免疫は高いものになりつつあります。
麻疹の原因となるウイルスを遺伝子レベルで詳しく調べるといくつかの型に分けられます。3年前に流行した麻疹の型はその時の流行がおさまってからは検出されていませんでした。今年流行しているのは、主にヨーロッパから入ってきた遺伝子型であることがわかっています。

麻疹は重い病気です。決して侮(あなど)ってはいけない病気です。一昔前までは、麻疹による死亡者は世界で150万人くらいで、ちょうど愛媛県の人口くらいの人が1年間にこの病気で亡くなっていました。5年くらい前でも年間40〜70万人の死亡が報告されていました。
日本でも、今のお爺ちゃん、お婆ちゃん達が子どもの頃は、多くの子が麻疹にかかっていました。39℃以上の発熱が長く続き、咳、鼻水がひどく、全身の発疹、目の充血や眼やに、小さな子ではおう吐や下痢もみられます。合併症がなくても、回復期に入るまでは、患児が衰弱していくので、かなり重篤に見えます。今の大方のお母さん方は、麻疹の子どもを家で看ていくことはできないと思います。お爺ちゃん、お婆ちゃん、お父さんらまわりの人も不安になって、家中で大騒ぎになると思います。入院の基準が低くなっている今日の医療では、麻疹にかかった子はほとんどが入院するのではないかと考えます。

麻疹は高い病原性に加えて、伝染力が非常に強いという質(たち)の悪さもあります。子どもが病気でも保育所・幼稚園に連れていったり、治りきっていないのに行かせる、保育所・幼稚園・学校の方も病児を受け入れる、皆勤賞至上主義などの“風習”がある所では大流行になってしまう恐れがあります。麻疹に限ったことではありませんが、予防できる病気については各自、各家庭で感染しないような対策をきちんととっておくことと、他人に病気をうつさないようにするモラルを持つことが大事かと考えます。



 抗菌薬(抗生剤)                   2011年5月

感染症を引き起こす病原体にはいろいろな種類があります。主なものが細菌とウイルスです。これらは大きさ、増殖の仕方などにおいて全く異なりますが、日常の診療において重要な点は、ウイルスに対しては抗生剤は効かないということです。ウイルス感染症に対して有効な抗ウイルス薬もありますが、現在のところ、水痘(水ぼうそう)、ヘルペス、インフルエンザ、エイズなど限られたウイルス感染症に対する薬しか開発されていません。
小児科領域の病気にはウイルス感染症が数多くあります。例をあげると、はしか、風疹、おたふくかぜ、突発性発疹、手足口病、ヘルパンギーナ、プール熱、ウイルス性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルスなど)、伝染性紅斑(りんご病)などがあります。それと何より、“かぜ”と呼ばれる普通の呼吸器感染症のほとんどがウイルスによるものです。これらに直接効く薬はなく、対症療法が中心になります。これらを正しく診断することの方が重要になります。

一方、細菌感染症に対しては、抗菌薬(抗生剤)が有効な治療手段となります。これまで多くの種類の抗菌薬が開発され、医療の分野で威力を発揮してきました。わが国において、敗血症、化膿性髄膜炎などの重症感染症が激減したことや小児の死亡率が世界で最も低いレベルにあるのは、抗菌薬療法によるところが大きいと考えられます。
しかし、今日では、抗菌薬が効かない耐性菌の存在が問題になっています。菌がまだ残っている中途半端な時点で抗菌薬療法をやめるのはよくないことですが、だらだらと長く抗菌薬を使い続けたり、そもそも抗菌薬が不必要な症例に使用することもよくないことです。抗菌薬の安易で不適切な使用が耐性菌を増やす原因になっています。
抗菌薬の濫用はよくないことです。かといって、抗生剤を意地になって使わないのもおかしいことです。多くの研究者たちが努力をして作り出してくれたとても役に立つ“武器”なのですから。現在、小児科医の多くが抗菌薬を適切に使うことを心がけています。




 子どもの事故  溺水                  2011年5月

わが国の1歳から14歳までの子どもの死因の第1位は、病気ではなく「不慮の事故」です。これは、日本で特別子どもの事故死が多いということではなく、日本のように豊かな国になり高度に医療が進歩している国では、感染症などの病気で亡くなる子どもの数が少ないため、「不慮の事故」による死亡の比率が高くなり、死因統計上トップになっているのです。ただ現実に、かなりの数の子どもさんが事故で亡くなっており、これを減らす努力、対策をまわりの大人はとらなくてはなりません。

「不慮の事故」うち溺水は交通事故に次いで多い。国が海で囲まれており、海での事故がとくに夏場に多い。狭い国土に対して台風、梅雨など降水量が比較的多く、川の流れが早くまた川の水位が急に増えることがあり、川での事故も多い。家の近くの沼や池で溺れることもあります。稲作が農業の中心で、平地でも灌漑(かんがい)用の池、用水路があちらこちらにあり、そこで事故が起こることもあります。先日も本県で兄弟がため池で亡くなるという痛ましい事故がありました。
しかし一方で、乳幼児の不慮の事故の多くは、家庭内で発生しているという事実があります。2歳未満の溺水の約8割が自宅の浴槽で起きています。子どもは数10cmの深さの水でも溺れます。小さな子どもがいる家庭では残り湯を抜くことが大切です。複数の子どもとお風呂に入る時は、子どもは一緒に浴室から出しましょう。浴室に子どもを一人だけにしては絶対いけません。トイレも危険です。便器の中をのぞき込んで、頭から落ちて溺れることがあります。

その他、階段に近づかないように柵を備えつける、ベランダに踏み台になるようなものを置かない、子どもの手の届く所にたばこを置かない、顔、頭をぶつけてケガをするので極端に角がとがった家具類は子どもの遊ぶ所には置かない、などの配慮が必要です。「子どもから目を離さないように親が気をつける」だけでは対策としては不十分で、実際問題として子どもを四六時中見張っていることは不可能です。ふだんから事故が起こらない環境づくりが大切です。



 発熱                         2011年4月

発熱は病気になったことを知らせる重要な警報の一つです。
一般に、熱があること、イコール、体が負けていると考えがちですが、必ずしもそうとは限りません。細菌やウイルスと体が戦っている最中と考えた方が正しいかもしれません。時期によっては、すでに体の方の勝利が確実になっていて、わずかになった“ばい菌の残党”を片づけているところかもしれません。
抗菌薬などの薬をきちんと飲ませないと、熱が続き、症状がどんどん重くなり、大変なことになる病気もあります。急を要することもあります。しかし一方で、日が経ちさえすれば、自然に熱が下がる病気が多いのも事実です。
子どもの熱が出たと、一家中がパニックに陥っていることがあります。あちこちの病院に子どもを連れていく、と言うより引きずりまわして、かえって子どもを疲れさせているようなケースが近年増えてきたように思えます。今、薬は病院に行けば容易に手に入る時代ですが、病気の子どもに対して親の看病が不足していると感じています。

解熱剤についてですが、熱のある時の方が菌やウイルスが増殖しにくいという事実があります。しかし、子どもは熱が高くなると、機嫌が悪くなり、食事や水分を摂らなくなったり、薬を飲まなくなったりします。また、熱のせいで、ぐずって眠らなくなったりもします。その際解熱剤を使って一時的に熱を下げて楽な状態にして、物を食べさせたり飲ませたり、薬を与えたり、寝かしつけることは意義のあることと考えます。



 低身長                         2011年2月

医学的にいう低身長とは、同性同年齢の平均身長より2標準偏差 (SD) 以上背が低いことと定義されています。例をあげて説明しますと、6歳6カ月の男の子の平均身長は116.7cmで、標準偏差 (SD) は5.0 cmです。この場合 -2.0 SDの身長は、116.7 - 2 X 5.0 = 106.7となり、この年齢では106.7cmを下回っている子どもを低身長とします。
身長の分布は、平均値に近い所に沢山の人が入り、平均値から遠ざかる(高い方へも、低い方へも)ほど人数が減ります。横軸を身長にし縦軸を各身長の人数としてグラフを書くと、富士山のようなきれいな形になります。-1SDから +1SD の間に全体の3分の2がはいり、-2SD から +2SDの間には95%強の人が含まれます。つまり、-2SD以下の低身長の子は、同性・同年齢の子を100人集めて背の低い順に並べると、1番前か、前から2番目になります。

低身長の治療として、成長ホルモン療法があります。この成長ホルモンは大変高い薬で、ほとんどすべての患者さんが小児慢性特定疾患研究事業による公費助成を受けて、治療をしています。この場合、成長ホルモン療法が受けられるのは、-2SDよりさらに低い-2.5 SD以下で、かつ、いくつかの詳しい検査をして成長ホルモンの“出が悪い”ことが証明され、「成長ホルモン分泌不全性低身長症」と診断された子どもさんに限られています。

背の低い子の大部分は病気によるものではありません。しかし、極端に背が低い場合や急に身長の伸びが悪くなっている場合は、受診して下さい。「成長ホルモン分泌不全性低身長症」以外の病気の一症状として低身長になっているケースもあります。いろいろなケースがあります。それは長くなるので、ここでは省略します。



 過剰な医療はむしろ有害                2010年12月

頭を打ったら、必ずCTやMRIを撮らないといけないわけではない。1、2回吐いたら、すぐ浣腸をして点滴をしなければいけないわけではない。熱が出たら、常に抗生剤治療が必要なわけではない。数日高熱が続いたら、即入院しないといけないわけではない。咳が少し続けば、その子に“喘息の気”があって、長期間治療をしないといけないわけではない。中耳炎になったら必ず鼓膜切開をして、何週間も薬を飲まないといけないわけではない。のどの検査で溶連菌が出たら、全例に尿検査をしないといけないわけではない。などなど・・・。

あたり前の事なのですが、そうは思っていない親やお爺ちゃん、お婆ちゃんがおられて、日々の診療で戸惑うことがわりと多いです。とくに、点滴に関しては、この地域には“点滴教”みたいな宗教に近いものが存在していて(すごい教主様がいたのでしょうか)、熱が高ければ点滴、お腹が痛ければ点滴、せき込んで吐いても点滴、念のため安心のために点滴・・・・(「何なんだ、この医療」はと思うことがしばしば)。小児医療とは点滴なり、みたいな状態です。「点滴は必要ありませんよ」と言うと、怒って帰る方がいます。
血液検査や“点滴”をすれば、保護者は喜んでも、子どもには負担がかかります。押さえつけられて、ブスブス針をつかれて、涙が枯れるほど泣かされます。大げさなことをしなくても、家でゆっくり休んでいれば治る病気は多いのです。待てない親に、待てない医者。深層心理として病気を重めに言ってほしい親に、うまく不安をかきたてる医療の側。うまく絡み合って一見絶妙の関係ですが、子どもにとってはいい迷惑。
過剰な医療は医療費の無駄遣いになります。安易な抗生剤の使用に対しては耐性菌の問題、放射線検査については被爆の問題もあります。

付け加えておきますが、ここで述べているのは、あくまで“過剰な医療”の話です。当然、検査によって重い病気が見つかることがありますし、小児では輸液は重要な治療手段であります。



 おたふくかぜ                      2010年10月

最近、大洲市周辺の町の保育園や幼稚園で、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の子どもさんが増えて来ています。この地域では、ここ3年くらいおたふくかぜの大流行がなかったので、抗体を持たない子がたくさんいると考えられます。
一般に、おたふくかぜは軽い病気と考えられがちです。確かに、死亡率の高い感染症ではありませんが、発症すると唾液腺の腫脹が1週間程度続き、発症した子どもさんはその間学校や幼稚園・保育所を休まないといけなくなります。お仕事をもっておられるお母様にも影響が出ます。何より、熱を出して、「痛い痛い」と泣く子どもを見るのはつらいものです。時には、無菌性髄膜炎、難聴、膵炎、精巣炎・卵巣炎、心筋炎などの重い合併症を起こすこともあります。

おたふくかぜをおこすムンプスウイルスに対しては直接的に効く薬はなく、ワクチン接種が唯一の予防法です。日本のおたふくかぜワクチンの接種率は約30%で、アメリカなどと比べてかなり低率です。この南予地域はもっと低い接種率であるため、保育所や幼稚園で一人患者さんが出ると、大流行になってしまいます。ワクチンで予防が可能な病気は、ワクチン接種をすべきです。早期の公費助成を期待したいものです。



「薬が飲めない」                    2010年9月

子どもが病気の時、薬を飲むのを嫌がり、とても困った経験をされたお母さんは多いのではないでしょうか。私も「この子は薬が飲めないんです。」とよく言われます。
日本の薬はボロではありません。きちんと薬が飲めれば、おおかたの病気は治ります。日本人の“注射好き”は有名ですが、注射でしか治せない病気はむしろ少ないでしょう。
製薬メーカーも、小児用の薬の味を良くする努力してくれています。昔の子どもは今よりずっと味の良くない薬を飲んでいました。今でも、外国の子どもは日本の飲み薬よりずっとまずい薬を飲んでいます。当院の前の調剤薬局の薬剤師さん達も、子どもの年齢や状況に応じて、飲ませ方のアドバイスや味付けの工夫をしてくれています。困った時は相談してみてください・

一方、子どもが薬を飲む飲まないの問題には、母親が本気で大事な薬と思っているかどうかにかかっているように感じることがあります。重い心臓病や難治性てんかんなどの病気を持つ子どもさんのお母様方から、「子どもが薬を飲まない」という話を聞くことはまずありません。
今の若いお母さんの中には、病院に子どもを連れて行くだけで、薬を飲ませない、看病というものをしない人がわりと目につきます。夜間救急病院や休日診療所を受診して薬をもらっても、その薬をきちんと飲ませている人はわりと少ないです。そういう時代になってしまったと言えばそれまでですが、医療の側も治療薬の必要性をもっと説明しないといけないのかもしれません。一方で、医療費がタダで有り難味がないということも一因かもしれません。



 熱中症                         2010年7月

梅雨明けから猛暑が続いています。盆地になっている大洲市は気温が35℃くらいになることがしばしばあります。私はここの出身ではありませんが、自分が子どもの頃の夏休み中は、こんなに暑かっただろうかと思ってしまいます。
北海道、東北地方を含めて全国的に厳しい暑さになっており、連日、熱中症関連の報道がなされています。すでに多くの方が亡くなられています。この時期は、日々の生活の中で熱中症にかからないように注意していくことが大切です。

熱中症は、暑い所に長くいて、発汗で体の水分や塩分が失われて脱水状態になり、熱がこもり、体に変調をきたす病気です。頭痛、吐き気、体がだるい、めまいなどいろいろな症状が出ます。ひどくなると、けいれんや意識障害が起こります。お年寄りや小さい子どもさんには、とくに注意が必要です。

暑くてたくさん汗をかいた時には、水分と塩分をこまめに補給しましょう。最も手に入れやすいものとしては、スポーツドリンクがあります。外で活動する場合は無理をせず、日陰に入って休憩をとることも大切です。長時間のスポーツは控えましょう。直射日光が当たる海水浴場などに、小さい子どもさんを長くいさせることは避けるべきです。また、熱中症は、屋外にいる人に限らず、家の中にいる人でもかかります。気温がそれほど高くなくても湿度が高いと、汗が蒸発しないので、熱中症を起こしやすくなります。
熱中症が疑われる場合は、涼しい場所に避難させ、体を締め付けている服装なら緩めます。扇風機やエアコンがあれば、それを使って体を冷やしましょう。急いで冷やす場合は、大きい血管が通っている首、わきの下、脚の付け根に冷たいタオルや氷を当てるのが効果的です。重症なら、なるべく早く医療機関に向かう必要があります。
このあたりでは、“おじいちゃんやおばあちゃんが怒るから” “体に悪いから” エアコンを使わないという話をわりと聞きます。しかし、現在の家の環境では、この猛暑の中では屋内もかなり高温になってしまいます。発熱した子どもさんがいる場合などでは、エアコンの利用は必要な処置と考えます。



 RSウイルス感染症                  2009年12月

一般の人には聞きなれない名前のウイルスと思いますが、寒い時期の小児科の診療においては重要なものです。成人では、このウイルスに感染しても、ほとんどの人が鼻かぜ程度の軽い症状で済みます。小児でも、学童以上の年齢であれば、通常、ひどい病気になることはありません。

しかし、乳幼児とくに生後半年くらいまでの乳児がこのウイルスにかかると、重症化することがあります(細気管支炎、肺炎)。鼻水、鼻づまり、咳、発熱などの風邪症状が出て、経過とともにゼーゼー、ヒューヒューといった喘鳴が現れ、呼吸回数が増え、ミルクや母乳が飲みにくくなってきます。顔色も悪くなります。このような状態になると、入院治療が必要になります。乳児は気道が細いため、短時間のうちに呼吸困難に陥るケースもあります。

RSウイルスはどこにでもいるごく一般的なウイルスですが、一度かかっても免疫ができにくいため繰り返し感染します。しかし、年齢が進むにつれて軽症で済むようになります。




 アデノウイルス感染症                  2009年8月

子どもがよくかかる病気の一つに、アデノウイルス感染症があります。多くの場合、高い熱と咽頭痛(のどが痛い)を訴えて、受診します。典型的な例では、のどがまっ赤になり、のどの奥の壁のところにブツブツがあり、扁桃が腫れて、その表面に白い膿のようなものがついているのが見えます。

夏に流行するプール熱(咽頭結膜熱)は、ある型のアデノウイルスで発症する病気です。目とのどが赤くなり、5日間くらい高熱が続きます。

アデノウイルスの感染症では、このほかにも、お腹が痛くなり、下痢をしたり、吐いたりする胃腸炎を起こすことがあります。熱も出ます。

保護者の方は、高熱が続くので、心配をされますが、ほとんどは自然になおります。他のウイルス疾患と同様に、抗生剤は効きません。しっかり水分をとって、安静にしていれば、約5日で症状は和らいできます。この間、親も子どもさんも我慢がいります。

まれではありますが、重い肺炎になることがあります。このような場合は、入院治療が必要です。 以前は、アデノウイルス感染症の診断は、受診した日の問診と診察だけでは、確定させることが困難でした。現在では、のどの浸出液や下痢便を用いる簡単な検査によって、すぐにわかるようになりました。

アデノウイルスはとても感染力の強いウイルスです。なおるまでは、保育所、幼稚園、学校は休ませてください。



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